私達の先祖である縄文人が竪穴住居を造り、定住生活を始めてから一万年以上の歳月が経過しました。その間、先祖は幾多の過酷な自然災害を被り続けてきました。
火山国日本列島ゆえの地震の多発、台風の襲来、豪雪地方の存在に加え、梅雨期の耐え難い湿気。この国特有のこれらの課題に果敢に向き合い、各地域なりに工夫し、冬は暖かく夏は涼しく快適で堅固な日本住宅を誕生させるに至ったのです。
私自身も東日本大震災の際の津波で事務所が流された経験があります。あれから7年、高台移転が完了しつつありますが、私達が手掛ける伝統構法に依る建物は一団地に一棟ぐらいでほとんどがハウスメーカーやプレカットに依る住宅という状況です。建築予算面でも大差ないのにと寂しく思うところです。

 今回私が設計し、地元の工務店が施工中の建物はこの地域の山の樹齢百年近い杉を使用しています。地元の製材所で挽いた42尺を最長とする杉材を墨付、加工します。大工に依る伝統構法でありながらも建築基準法に適合し、現在の設備や道具類を駆使した和風住宅です。
私が手掛ける仕事の技術・技能は歴史ある建物(古民家)の構法が教えてくれた宝物です。
戦前の地方木造住宅は大工が建主の長屋に住み込んだり、通ったりし、一日幾らの常備方式でした。そのため請負の仕事以上に丁寧で“確実な細工”が可能でした。
その構造を見ると、基礎は自然石に依る石場、柱は栗の木で一本の木から柱一本、梁・桁の外側は杉、雨のかからない部分は杉より丈夫な松の曲がり物の通し、柱と柱の間は通し貫、貫の継手は上げ鎌・下げ鎌、足元の外側は割り根太、内部は大引で繋ぎ、雪国のため梁・桁は特に大きな部材となります。

 今、住宅もマイカーの延長のように考える方が多くなりました。折角の日本住宅に住みながら経年変化や寒くて使い勝手が悪いなどのマイナス面だけを見る方もいます。
「古い建物は今時はやらない。取り壊して今風の建築にしたい。それならフラット35も利用できるし。」というような風潮です。
 しかし伝統住宅は、築後百年以上を経過していようと私ども伝統再築士の手によれば、その土地の気候風土に適合した快適な生活ができる住まいに再生する事ができます。
石場建ての貫工法の建物でも、フラット35の融資を受けながら新しい住環境として提供する事ができるのです。

 何と言っても木造建築はこの国日本が世界一と豪語できる世界最古の木造建築法隆寺や最大規模を誇る東大寺大仏殿があります。これらの建築物は圧倒的な佇まいで訪れる者の心を呑み込みます。
 いささか話が飛躍しますが、私はこのような遺産を残すに至った先人達の原点に縄文人達の心とエネルギーと知恵を感じるのです。偉大なる日本民族の先駆者縄文人の知恵をベースとし大陸からの文化も吸収・融合・調和させ現在の日本文化があるものと考えております。
先人の知恵が詰まった古民家を壊すこと無く現代に合った形で再築することが私の使命と考えております。

一般社団法人日本伝統再築士会岩手支部
代表理事 木川田 常男